ロンドン・ガトウィック空港。パスポートコントロールには、すでに長蛇の列ができていた。
イギリスの入国審査は厳しく、無職の者(私だ!)や、帰りの航空券を持たない者、持っていても1年オープンの切符で日付の入っていない者など、少しでも怪しい(つまり不法就労しそうな)者は、入国できないと聞いていたので、どきどきしながら順番を待った。
見れば、コントロールの脇の方に、審査ではねられたらしい人たちが、不安そうな顔つきで座っている。ほとんど東洋系の顔。げー、私もあそこへやられちゃったらどうしよう……。
などと考えているうちに、いよいよ私の番がやってきた。
うー、緊張するぜ!
頭のなかで、「地球の歩き方・旅の会話集」を反芻しながら……。
厳しい顔つきの係官が、私のパスポートを見ながら、キングズ・イングリッシュでまず第一問。
「訪問の目的は何ですか?」
会話集そのままの質問だ。
「観光です」こちらも型どおりに答える。
「イギリスにどのくらい滞在しますか?」
「2週間です」(これはうそだ)
「帰りの航空券は持っていますか?」
へいへい。私は航空券を差し出した。ここまでは、マニュアルどおりだったが、次に係官は、イギリスの次はどこへ行くかと尋ねてきた。
「フランスです」
すると、係官はさらに次の質問を発してきた。
「ナントカカントカビザ?」
はあ?
あがりかけた私の頭は、最後の「ビザ」という言葉しか聞き取れなかった。
「パードン?」
聞き返すと、どうやら、フランスに入るのにビザは持っているのかと聞いているらしい。
なんでそんなこと聞くんだよ。
予期していなかった質問に、すっかり舞い上がる。
日本人の場合、フランスに入国するのに、3ヶ月以内の滞在ならビザはいらないはずだ。しかし、英語でなんて言えばいいんだ?
パニクった私の頭からは、英文法がすっかりぶっとんでしまった。
えーと、えーと……
「アイ・ニード・ナット・ビザ!」
ひぇー。これじゃ、中学1年生以下だぜ。
でも、どうやら通じたらしい。係官は無表情のまま(笑われなくてよかった)、ポンとパスポートにハンコを押してくれた。
ふー。第一関門突破!
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